(手記はここで途切れている)

わたしの ぼうけんは これで おわってしまった

オリジナルフロー理論グラフを用いた分析 (『ポンボール』編)

前回は、フロー理論の図を改良したグラフを提案した。

imashin0402.hatenablog.com


そこで今回は、このグラフを分析に用いるにはどうすれば良いのか、実例を上げて示そうと思う。

 

目次

 

題材について(読み飛ばしても良い)

 今回は『ポンボール』を例に説明を試みる。以下、『ポンボール』についての説明が始まるが、興味のない人は読み飛ばしても問題ない*1

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 『ポンボール(PunBall)』とはスマートフォン向けのカジュアルゲームで、『アーチャー伝説(Archero)』で名高い中国のゲーム会社Habby(海彼網絡)の作品である。『ブロック崩し』の要領で壁やブロックにボールを投げ、跳ね返りを利用して耐久力の設定されたブロック型の敵を倒していく。

 基本的には『アルカノイド』のブロック崩し&パワーアップ要素を基調としながら『2048』の影響を受け発展した様々なハイパーカジュアルゲーム*2RPG的な要素、つまり近/遠距離攻撃のある敵や装備、レベルアップを入れてガチャによる装備のアップグレードを足したようなゲームデザインになっている。(具体的には自分で一度遊ぶか、動画を探して見てほしい。)

 

 遊んでみると分かるのだがこれが非常に面白く、つい時間を費やしてしまう。課金*3への魅力もかつてないほど強く感じた。

 この理由として、課金を促すのではなく一気に飽きさせないためのスタミナシステム、シーズンパスを代表とした本来受け取るはずの報酬を受け取るために見せた課金要素、『Slay the Spire』的なデッキビルドとシナジーのある特殊ボールなどが挙げられる。

 しかしどうやら難易度設計の巧みさが最もたる要因ではないかと思われた。そこでフロー理論を用いてうまく説明するために編み出したのが上記のグラフ……という経緯がある*4

 

本題

 さてこのゲーム、難易度の変遷が興味深い。ステージ*5間の違いも極端なのだが、ある1ステージ内の40〜60ウェーブの間でも急激に難易度が上がっていく。これにより面白い体験が生み出されていることを、前回の図を活用して示したい。

 

 ステージ内に絞ると、開始からクリアまでの難易度はこのように変化している*6(青のチャレンジ曲線)。ステージの序盤は敵の体力も数も少なく簡単なのだが、加速度的に難易度が上がっていくことで、クリアに近付くにつれ難易度の上昇幅が大きくなることが伝わるだろう。
 一方でプレイヤーのスキル(オレンジの曲線)は、最初こそチャレンジ曲線より高いものの、上昇幅は相対的に小さい。そのため終盤のウェーブでは、チャレンジがプレイヤースキルを上回る(=ゲームオーバーになる)ことも少なくない。よってステージに臨む前に装備などを整えておき、開始時のプレイヤースキルを上げる*7ことで対策するようになっている。

 この図に、フロー幅も加えてみよう。

 

 このように、序盤のウェーブではプレイヤーのスキルがフロー幅の遥か上側にある(=簡単すぎて退屈)。
 しかし中盤のウェーブでは難易度の上昇に従ってフロー幅がプレイヤースキル曲線に近付いていき、その範囲内に留めることになる(=フローに入って楽しい)。
 終盤ではチャレンジがプレイヤースキルを上回るが、フロー幅に入った状態で終わる(=ギリギリで失敗して楽しいままゲームオーバーになる)。

 このように『ポンボール』は、プレイヤースキルの変化が相対的に小さいことを前提として

 ①最初は非常に低い難易度から
 ②連続的、かつ
 ③急激に難易度を上げる
ことで、フローに入ることを(ほぼ)保証している。
 この3つの条件があるとなぜフローに入りやすくなるのか、条件を満たさない場合と比較しながら詳しく説明しよう。

 

 ①序盤の難易度がかなり低い

 下の図のように、序盤からチャレンジがプレイヤースキルを大幅に上回る場合は、クリアできないままプレイングスキルを磨かないといけないなどの不都合が出る*8。よって少なくともゲーム開始時は(ゲームシステムや楽しさを学ぶ必要性もあり)難易度を低めに設定した方が無難だと言える。

 

 

 しかし『ポンボール』では、どれだけステージを進めても、ステージの序盤の難易度はやや退屈に思えるほど低い。これは、『ポンボール』に運の要素が大きく関わるからだと考えられる。1つ前のステージを運よくクリアできてしまった場合、次に進めるステージは恐らくクリアできなくなる。しかし最終的にクリアできない難度のステージであっても、序盤は確実に進める難易度であるため、手も足も出なくなってしまうようにはなりにくい。離脱率を減らすことが重要なスマホゲームにおいて、このバランスは大きな意義があるだろう。

 

 ②難易度は連続的に変化する

 少し前まで簡単に進められていたのに、ステージ間で難易度が極端に上がったり、同じステージ内でも一部の仕掛けやボスが難しかったりして、突然進めなくなるのは誰しも経験したことがあるだろう。逆に一部分だけ、やけに簡単に進められてしまうこともある。
 これは、特定の部分だけ突然に難易度が変化してしまっている、言い換えれば離散的に難易度が変化していることに起因する。この対策ができていなければ、①のように低難度から始めたとしても、フロー幅を飛び越えてしまう(=簡単なところから突然難しくなりゲームオーバーになる)可能性がある。

 

 

 したがって、難易度はなるべく連続的に変化させるのが好ましい場合が多い*9。こうしておくことで、たとえどこでゲームオーバーになっても、あと一歩でクリアできそうな壁として認識されやすくなる、とも言える。

 『ポンボール』の場合、一投ごとに倒し切れなかった敵や手に入れ損なったアイテムが残るため、難易度が突然変わるようには見えにくくなっている*10

 

 補足だが、同様の理由でプレイヤースキルもなるべく連続的に成長させると良いとも言える。『ポンボール』では特殊パワーアップの獲得時こそ大きく成長するものの、通常ボールの数はゲームへの影響が小さく、あまり意識しないところで成長しているように感じる。
 成長幅は大々的にアピールされがちだが、滑らかな成長を目立たないように入れるのも1つの手ではないかと思う。

 

 ③急激に難易度が上がる

 序盤の難易度は低く、更に連続的に難易度が上がるようにした。しかしこれだけでフローに入れるようになるわけではない。簡単すぎて何もやりがいの無いゲームになりかねないのである。

 

 

 そこで中盤から後半にかけて難易度を上げ、フロー幅をスキルに近づけるのが解決策の1つとなるが、どのように難易度を設計するのかが難しい。プレイヤースキルの上がり方が人によって異なるにもかかわらず、難易度を上げすぎると理不尽なほどクリアできなくなり、上げなさすぎるとヌルゲーのままになってしまうからだ。

 『ポンボール』ではというと、思い切って極端なほど難易度を上げており、大抵の場合プレイヤースキルを超えるから、フロー幅に確実に入るようになっている。それは同時に、大抵の場合ゲームオーバーになることも意味する……のだが、そこは1周の短いハイパーカジュアルゲームゲーム終了までの時間が短いということは、ゲームオーバー自体のペナルティが小さく、やり直しへのハードルがかなり低いのである。更に①によりステージ序盤で苦しむこともなく、②によりもう少し頑張れば先に進めそうにも感じるため、再挑戦しやすい時間泥棒ゲームとなっているのだ。

 

 

ゲームジャンルごとの相性

 ①~③をうまく使えば確実にフロー状態を生み出せるが、どんなゲームにもそのまま適用できるわけではない。セーブポイントの間隔が広かったり、RPGのように全体が数時間掛かったりするようなゲームでは、離脱を招く結果となるだろう。

 相性が良いのはやはり、比較的1周が短く繰り返しのプレイが前提となるゲームだと言える。『ポンボール』のようなハイパーカジュアルや、『Slay the Spire』のようなローグライク、『Vampire Survivors』のような弾幕ゲームや、『Tetris Effect』のような落ち物パズルが代表である*11。またセーブ地点をうまく設定すれば、いわゆる死にゲーにも応用しやすいのかもしれない。

 また例は多くないが、対戦ゲームとの相性も良いのではないかと個人的には感じている。『League of Legends』では優勢なチームのリスポーン時間を短くすることで早めに決着がつくようにしているが、負けている側からすると終盤に急激に難易度が上がっていることで、負けたとしてもフローには入れるようになっている*12と言える。

 

 

おわりに

 長々と述べてきたが、「①最初は非常に低い難易度から②連続的、かつ③急激に難易度を上げる」という難易度設計の話としては大したことのない内容だったかもしれない。しかしこれを説得的に説明する際に、何度か出てきたグラフは理解の助けになったのではないだろうか。

 難易度設計やフロー理論について考えたい時は、前回の記事を参考に、このグラフをぜひ使ってみてほしい。

 

 

一応前回の記事を再掲

imashin0402.hatenablog.com

 

*1:ホントに

*2:「2048 ブロック崩し」などと検索すると無限に見つかる

*3:本来は開発側がプレイヤーに料金を課すことを指すことは分かっているが、もはやプレイヤーがゲームに追加の有料コンテンツを購入する意味の方が一般的なので、当ブログでは特に説明の無い限り後者の意味で用いる

*4:なのでやや恣意的であることは否めない

*5:レベルと言っても良いが、スキルレベルと混同しそうなので避ける

*6:言わずもがな、筆者の観察に基づいているので完全に信用されても困るが

*7:ステージ中の上昇幅も少し上がる

*8:例えばマッチングが上手くいっていない対戦ゲーム、特に格闘ゲームにおいて初心者は、勝てるまで負け続けて学習する辛い段階を踏む必要がある

*9:もちろん厳密に連続的な変化にするのは難しいため、プレイヤー視点で連続的に変化しているように感じるように設計する

*10:繰り返すが実際には1投ごとの変化のため離散的ではあるが、プレイヤーの感覚としては連続的であるかのように見えるというだけ

*11:全100階の制覇を目指すローグライクや、落ち物パズルLumines』の長大なチャレンジモードといった、やり直しに時間の掛かるものは例外として。

*12:敗北を喫する悲しみはあれど